しかし、目の前は真っ白だった。
美和が白いプリントらしき紙を俺に突き出したからだ。
そして、それはすぐに美和の顔に変わった。


ずいっと俺に顔を近づけて、

『これ、君のだよね?』

俺が誰なのかも忘れた美和が眩しいくらいの笑顔を向けて言う。

(…やっぱり、“君“なんだ。)

まじまじと顔を見つめる俺を不思議そうに見つめ返す美和。

自然に接しないといけないのに、これじゃあいくらなんでもおかしすぎる。


『あれ?君のじゃないの?』
美和だって困っている様子。


俺の背に隠れるような形で見ていた粋がひょっこり顔を出し、

『あぁっ。それ俺の!!』

悲鳴にも近い声をあげて俺と美和の間に入ってきて、ガシッとプリントを掴んだ。

『…あ、あぁ、そっちの君のだったんだ。その紙飛んできたからさ。』
美和も安心したように笑って粋にプリントを渡した。

同時に掴んでいた俺の手を離した。

『勘違いしちゃった。ごめんね?』
美和は俺の方にも笑いながら謝ってきた。

『…あぁ、大丈夫だから。』


これが俺の精一杯の会話だった。