『待ってっ。』


一日も忘れたことがない…美和の声。
その声が辺りに大きく響いた。


(…ま、さか…な。)

変に心臓がバクバクするのが分かる。
粋の腕を掴む手にも力が入る。

(早く行かなきゃ…。)



パタパタパタ…。

こっちに近づいてくる足音。

粋が興奮して俺の背中を叩いている…。

すべてがスローに感じるほど俺の頭は混乱していた。


『待ってってば~。』


グイっ。

俺の手首を細くて折れてしまいそうな手が捕まえた。




(…あの時も、こんな感じだったな。)






一息ついた。

普通に、
自然に、
振り返ろう。
どうかしたか?って聞くだけでいい。
初対面のように。




俺は心臓が止まるかと思うくらい緊張したまま、
振り返った。