金星に帰る



部屋を出る前にカーテンを閉めに窓際へ寄る。

アカネがもぞもぞと動いて寝返りをうつ気配が背後でした。



「カーテン、開けといて。

ベッドから金星見たいから」


本当に眠たそうな、とろんとした声に少しだけ切なさを感じたのは気のせいだろうか。


「気をつけてね」

「ああ。おやすみ」


お互いの顔も見ないまま、短い別れの言葉を交わし、俺は彼女の部屋をあとにした。







外に出て、見上げた空は薄明るい。


こんな空で、星なんか見えねぇよと独り呟く。


アカネの小さな呼吸音、

窓から射すネオンの灯り、

タバコの吸殻。


そういうものを全て置き去りにして、

そうして俺は、今夜も金星に帰るのだ。