「お前に分かるかよ」
「分からないさ、分からない。だから今こうして聞いてるんだ」
「……俺がそう簡単に教えるとでも思うか?」
「NOだな。でも100%のNOじゃない。何かの拍子か、それともお前が熔けてか……。いつか吐露してくれりゃありがたいぜ? 似た者同士だし?」
「似てないだろ。俺とお前は真逆過ぎて笑えるさ」
「それもそうだ。似てるようで似てない。だから分からないし分かるんだ、空白」
「……相変わらずだなお前は。じゃあ、俺は帰るから」
「はいはい……」

 呆れたように溜め息を漏らす万を尻目に、添はさっさと教室を後にした。かばんの中にはこれまでの集大成が眠っていて、これを速達で送れば終わる。
 能恵にも気付かれずにこっそりと仕立て上げた自分の結晶。どうなるのか分からないし、誰かに分かってもらう理由も無い。

「似た者同士、か」

 万の言葉が引っ掛かっていた。自分と似ていて似ていない存在、寿岳万。向こうは日々を弄ぶように楽しむ、器用な才能を持つ人だから似ているなんて思わない。
 けれどどこかシンパシーを感じてしまうのは、やはり似ているからなのだろうか。それか彼の才能に、憧れているからなのだろうか。

「……無い」

 校舎を出て郵便局に向かう。携帯電話にメールは無く、家に帰っても能恵は引きこもっているから出てこない。彼女の言った期限までもうしばらくあるが、何をされるのか全く見当がつかない。
 赤羽出版に関しても音沙汰無かった。能恵から聞く事では要からの連絡も無く、ウインドノベル以外の雑誌にも世界明洲の事は載っていない。

「ま、いっか……」

 かばんに入れている封筒をちらりと見る。「株式会社・赤羽出版宛」と書いた自分の文字がどこか強張っているのは気のせいではないだろう。
 自分の無色を敷き詰めた封筒を持って行く足が速まっている事に気付いたのは、郵便局の前で息切れしている自分を知った時だった。