タレントアビリティ

「そりゃああっちゃんの仕事だから、仕方ない事もあるよ。何たってあっちゃんは才能に溢れている。僕や添君が知らない彼女の顔があるのは、当たり前さ」
「分かってますけど」
「仕事っていうのはそういうものなんだ。大切な人のために、その人に分からないところでただ働くような、そんなもの。僕はこういうのが好きでやっているからいいけれど、あっちゃんはどうだか、僕にも分からない。いつもにゃんにゃん笑ってばっかで、泣く時はあっても、本心が分からない。随分の付き合いだけれど、本当に、ね……」
「僕は」

 ホームにベルが鳴り響き、やかましい音と共にゆっくりと電車が滑り込んで来た。平日の昼間だけあってあまり混雑していないが、真っ赤な背広の女性と見慣れない制服を着た学生は、やはり浮いていた。
 先に乗り込んだ要に付き添いながら添は言う。ドアが閉まり、ゆっくりと動き出す。

「僕は能恵さんが、要さんの事、本当に信頼してると思いますけど。あの人があだ名で呼ぶ事なんて、聞いたこと、ほとんどありませんから」
「……そういうものかな」

 添は何も答えなかった。ただ何となく口にしただけで、自分の本心なのかすら分からない。けれど要が羨ましくて、ただ電車のポスターを眺める要の横顔を、ぼんやりと見ていた。
 手持ち無沙汰になって携帯電話を開く。メールも電話も、来ていなかった。