「能恵さんが、明洲さんにナイフを向けました」
「……そえ君、君は何を」
「この間会った明洲さんは、能恵さんの知らない明洲さんだったみたいで、能恵さんは本気で警戒してました。『そのくらいの男なら私でも』とか『あんたが、世界明洲?』という風に、本気で。ねぇ、要さん。世界明洲はどこにいるんですか?」
「…………………………」
「いや、能恵さんとあなたが知っている世界明洲は、いったいどこにいるんですか? あの京都市内のオンボロ寝殿造にいたTシャツの人は、能恵さんが知っている世界明洲じゃなかった。それはきっと、あなたにも言えます」
「そえ君。それは本当の話なのか?」
「本当ですよ」
「でもあっちゃんは、何事も無かったかのように、それからあのオンボロ屋敷にいた明洲と話していたんだろう。現に僕は連絡を貰った。あの日の夜あっちゃんが、『変わった人なのね』って、そんな風に」
「……勝手な考えですが、要さん。オリジナルの世界明洲は、どこにいるんですか?」
ガリッ、と。要の口の中で飴が砕ける音がした。濃厚ないちごミルクの香りが広がり、しかし要は前を向いたまま。
先程からスピードは変わらず、しかし確実に京都へと車は向かう。トンネルの出口が近づいてきた。
「オリジナル?」
「世界明洲には様々な噂が飛び交っているのって、結構有名でして。それで、世界明洲は複数人いるんじゃないかって話ですよ。あんなに作風もストーリーも違うと、そうなりますよね?」
「……噂はかねがね聞いているが、本物は1人しかいない。世界でただ一人、世界明洲の名前を持っているのが、僕とあっちゃんの友達の、あいつだよ」
「なら、能恵さんが言っていた事は……」
トンネルを抜ける。その時添の瞳に映った要の表情は、明らかなものでしかなかった。
どこからどう見ても怒りに満ちた要。紅い髪は炎のようで、瞳は獲物を狙う猛禽類のようで。荒々しい感情をチリチリと滲ませながら、要はハンドルを握っていた。
「……そえ君、君は何を」
「この間会った明洲さんは、能恵さんの知らない明洲さんだったみたいで、能恵さんは本気で警戒してました。『そのくらいの男なら私でも』とか『あんたが、世界明洲?』という風に、本気で。ねぇ、要さん。世界明洲はどこにいるんですか?」
「…………………………」
「いや、能恵さんとあなたが知っている世界明洲は、いったいどこにいるんですか? あの京都市内のオンボロ寝殿造にいたTシャツの人は、能恵さんが知っている世界明洲じゃなかった。それはきっと、あなたにも言えます」
「そえ君。それは本当の話なのか?」
「本当ですよ」
「でもあっちゃんは、何事も無かったかのように、それからあのオンボロ屋敷にいた明洲と話していたんだろう。現に僕は連絡を貰った。あの日の夜あっちゃんが、『変わった人なのね』って、そんな風に」
「……勝手な考えですが、要さん。オリジナルの世界明洲は、どこにいるんですか?」
ガリッ、と。要の口の中で飴が砕ける音がした。濃厚ないちごミルクの香りが広がり、しかし要は前を向いたまま。
先程からスピードは変わらず、しかし確実に京都へと車は向かう。トンネルの出口が近づいてきた。
「オリジナル?」
「世界明洲には様々な噂が飛び交っているのって、結構有名でして。それで、世界明洲は複数人いるんじゃないかって話ですよ。あんなに作風もストーリーも違うと、そうなりますよね?」
「……噂はかねがね聞いているが、本物は1人しかいない。世界でただ一人、世界明洲の名前を持っているのが、僕とあっちゃんの友達の、あいつだよ」
「なら、能恵さんが言っていた事は……」
トンネルを抜ける。その時添の瞳に映った要の表情は、明らかなものでしかなかった。
どこからどう見ても怒りに満ちた要。紅い髪は炎のようで、瞳は獲物を狙う猛禽類のようで。荒々しい感情をチリチリと滲ませながら、要はハンドルを握っていた。
