タレントアビリティ

「よくない」
「……なんで」
「あのままほったらかしにしていいはずないのよ! だって! あんなに! 辛そう……!」
「そうは見えませんけどね、僕には」
「そえっ!」
「僕には見えません。走馬はあいつなりに楽しそうですし、確かに犯罪やってますけど、ただの万引きじゃないですか」
「ただの……? あんた、いったい自分が何言ってるか、自覚あるの?」
「ありますよ」

 投げられた新書を元あった本の山に乗せながら言う。ぺたんとした体制で座る能恵を見下ろしながら、腕を組んで添は立っていた。

「あいつはそうやって生きてる。それがあいつのやり方であって、それは何人たりとも動かす事はそう甘くはないんでしょう。風音さんみたく緩くはないんですよ、走馬は」
「だからって……、私は……」
「自分の才能が、いつでも他人を貫き通すわけじゃない。能恵さん、それを1番知ってるのは、能恵さんじゃなくて俺だ。だから今回、能恵さんが走馬をどうにかするとかは、きっと通りませんよ」
「そんな……! そんな、こと」
「分かってるかもでしょうけど。能恵さんの才能って、結構、他人に刺さりますから」

 踵を返して部屋から出ようとすると、背後から小さく能恵が添を呼ぶ声がした。振り返らずに能恵の続きを待つ。

「そえにも?」
「……………………」
「そえにも、そうなの?」
「おやすみなさい」
「そえっ!」
「何かまたあるなら、いつでも呼んで下さい」

 扉を閉じる。能恵はもう何も言うこともなかったし、それから翌朝まで何かしらコンタクトをとる事は無かった。
 だから添が翌朝学校に行くときに、いつものような見送りが無かった。何となくそれが寂しくて、昼ご飯はコンビニのパンだった。