タレントアビリティ

「うわ、おいし……」
「うまっ……」
「だろ? 俺の行き着けなんだよなーこの店。な、女将さん」
「学生さんなのにごひいきにさせていただいてありがたいですよ。今日は友人さんも妹さんも、ごゆっくりお楽しみ下さいませ」
「……能恵さん抑えてください」
「分かってるわよ」

 さらりと地雷を踏んだ女将を軽々スルー出来るくらいに、ここの刺身は美味だった。かなり舌の肥えているであろう能恵でさえ「かなり上等ねぇ」と唸っている。
 そして得意げな万。能恵に認められた事がよほど誇らしいのか、女将に向かってのVサイン。

「よろず君の行き着け?」
「和食好きなんで、ここら一帯の和食料理店はそれなりにコンプリートしましたよ。その中でもここはかなりグッドですね。隠れ家っぽいから客足も適度で、静かなムードが保てていいです」
「食費かかるでしょう?」
「バイトしてますから大丈夫ですよ。高くても少なくても美味しい料理を食べるのが、ま、俺の流儀ですから」
「の割には昼メシ手抜きだよな万って」
「昼はどーでもいい。大事なのは夜なんだぜ? 能恵さん、この店あんまり、ばらさないで下さいね?」
「いちいち言わなくても結構。私は最低限の礼儀は守ります。ところでアメリカ国務省の知り合いに大の刺身好きがいるんですけど、機会があればお連れしてよろしいでしょうか女将さん?」

 無茶苦茶な発言が来た。ぽかんとする女将をスルーして能恵が続ける。

「こう見えて私はなかなかの交友範囲を持っていますので、何かしら機会があれば」
「は、はあ……。それは名誉な事ですねぇ……」
「……能恵さん、一般人に能恵さんの感覚が通用するなんて思わないで下さいよね」
「はいはいさーっ」
「……アメリカで大々的に取り上げられたらどうすんだか。ってか女将さん、俺の小鉢まだ?」
「少々お待ち下さいませ」

 軽く一礼して下がる女将。声の届かない範囲に彼女が消えてから「アホか能恵さん」と万がお品書きで頭を叩く。ぽこっと軽い音がした。