タレントアビリティ

 はあ、と能恵が溜め息を漏らした。彼女にしては珍しい動作。そして組んでいた腕を解いて、壁にもたれ掛かって腰を下ろした。ワンピースのスカートを瀟洒に畳みながらの動作は美しい。

「……かもしれないわ」
「あれだけ負の感情を出してしまえば、能恵さんとはいえど影響しますよ」
「そんなの私が1番分かっている事よ、そえ」
「ただ何と無く俺も分かりますけど」
「劣化コピーのくせに?」
「劣化コピーだからこそ」
「……………………」
「……………………」

 再び沈黙が場を包む。お互いに相手に何を言おうかを頭で算段していて、そしてそれがいかに効果的かを判断しているからこその、この間。

 先に口を開いたのは。いや、先に動いたのは、予想通りというか予想外というか、能恵の方だった。

「ことちゃんとこ行ってくる」
「……いってら」

 立ち上がってパソコンをキャリーケースに入れて、さっさと部屋を後にしようとする能恵だったが、しかしその歩みはやはりアパートを出る直前で止まった。
 ふわりと振り返り、しかし添の顔を見ずに。そんな細かい動作の1つ1つが、添をくすぐる。

「ごめん」
「何で謝るんですか」
「……ごめん。じゃ、ね」

 アパートの扉が閉まる音。添は能恵が完全にいなくなったのを確認してから、深く大きく溜め息をついた。