タレントアビリティ

「……どこ行ってたの」
「散歩、ですかね」
「……心配したんだから」
「すみません」

 帰り着いたのは10時過ぎだった。行きは勘で何とかなったのだが帰りはどうしようもないという状況。アパートの扉を開くと、頬を膨らませた能恵が立っていたという状況だった。

「なにしてたの」
「散歩」
「自転車を使う散歩なんて無いんだけど」
「……自転車押して散歩してましたばらっ!」

 強烈なビンタを喰らった添はそのまま壁に激突させられた。頭を打った衝撃にくらくらしていたところで、能恵が添の手首を引いて茶の間へと引きずる。割れたちゃぶ台がまだあった。

「痛い! 痛いって能恵さん!」
「……いたがればいいじゃないのよ」
「俺にそういう趣味はありませんって! 敷居が痛い!」

 ゴツゴツと引きずられて畳に投げ出される。添はあまりの能恵の行動に顔を上げた。時刻は午後10時。

「何ですか!」
「……怒ってるわよ、私」
「そうみたいですね。だからって俺に八つ当たりは止めて下さいよ」
「そえに怒ってるの。……勝手な事しちゃって、何よ」
「勝手で何が悪いんですか」
「何が悪いって、そりゃそえの行いが悪いのよ」

 能恵が口を尖らせて、しかしそれでも結構本気の怒りを纏って添の反対側の壁にもたれ掛かった。怒っているらしい、一応。

「そえ」
「何ですか」
「何で私を放置したのよ」
「忘れました」
「思い出しなさい」
「無理です」
「無理しなさい」
「無理しません」
「そうま君に会ってたの?」
「走馬に会ってました」
「何を話した?」
「……黙秘権」
「今、何を躊躇った?」
「能恵さん」
「質問を質問で返さないの」
「能恵さん、走馬に何かしら影響受けました?」

 能恵の言葉が止まった。添も言葉を止めて、そして2人の間に神妙な空気が流れて留まる。無音のアパート。どこかからか若者が騒ぎ立てる笑い声。