タレントアビリティ

「そえ」
「……何ですか」
「私の持論、知ってる?」
「『人にはそれぞれ才能がある』ですよね?」
「うん、せーかい。それってあってるかな?」
「……客観的に言えば正解ですよ、きっと」
「主観的な評価は出来ない?」
「俺には無理ですね」
「そっか」

 能恵がグラスを置く音。そしてふらりと立ち上がり、廊下の壁に頭をもたれ掛けている添の前に立つ。狭い廊下。反対側の壁にもたれて、そんな能恵の表情を、添は見ていた。
 ああ。

「……泣いてますか?」
「……ううん、泣いてない」
「どうしてほしい、ですか?」
「ぎゅって……、して」
「……はいはい」

 小さな能恵の身体を抱きしめる。
 微かに震えていたり首筋に温かい水が落ちていたりするけど、能恵は泣いていない。能恵が言うから、それは正しいのだけれど。

「泣いてますか?」
「……泣いてないよ。泣くわけ、ないよ」

 撫でた背中は不自然に痩せている。
 添が能恵を追い出せず、能恵が添から出ていかない。赤の他人同士離れない理由が、分かったようで分からなかった。