タレントアビリティ

「そえ」
「……何ですか?」
「私、間違ってる、かな」
「分かりません」

 ちゃぶ台がご臨終を迎えてしまったので、お盆にカルピスを作って能恵の前に置く。座り位置的に添は廊下に座らなければならないが、今は床が冷たくて気持ちいい。
 自分の分のストローに口をつける。原液が少なかった。薄い。能恵が作るものよりまずい。当たり前だけど今だけは、美味しくなるかもしれないと思ったりしていた。

「そうま君、間違ってる、かな」
「分かりません」
「……ちゃんと考えてよ」
「考えての結果がこれですよ」
「うそだ」
「嘘じゃない」

 ゴトン、と。廊下の壁に頭をもたれ掛けて否定した。能恵の表情は見えないけれど、氷がグラスに当たる音がした。カルピスが減った。

「まずいよ」
「そりゃあ、ねぇ」
「分量間違えた?」
「分かりません。ただ、能恵さんのものに追い付かないだけですよ」
「……そうね。でも、やっぱり、おいしい」
「そりゃよかった」
「ありがと、そえ」

 感謝された。夏服から汗が引くのを感じた。カルピスのその場限りの冷たさでは、さすがに今までの部屋の不快感は取り除けてはいない。それが少し消えた。能恵の声が少し潤った。

「何かしましたっけ?」
「私を、止めたよ」
「……ああ」
「動転してたな、私。ふふっ、やり過ぎちった」
「やり過ぎってゆーか、もうやり過ぎですよ既に」
「分かってる」
「分かってる?」
「…………うん」

 やや遅れての返事。今の能恵は相当キている。
 普段爆発しないような人が爆発してしまって、それから我に返って自分を思い出すと、そりゃあかなりのダメージを受けるものなのだ。例え能恵のような人だとしても、彼女はまだ21歳。添から見れば、「もう」21歳なのだろうけど。