パタン――ッ
と、ふすまが閉まればたたみの香りが鼻をくすぐる。
「もっとかまってよ」
ふたり分の荷物がドスッと音を立てて床に落ちた。
瞬間、首とお腹の辺りに回される凜久の腕。
「瑠璃のバカ……」
「ん……っ!」
優しく耳を噛まれると、凜久はプイッとそっぽを向いて
窓際のイスへとひとりで座ってしまった。
ど、どうしよう……
何で怒っちゃったのかな?
「凜久……」
「……」
窓の外の景色を見つめたままの凜久は、私が名前を呼んでも振り向いてくれない。
せっかく、みんなで旅行に来て。
露天風呂付きの、普段は泊まる事なんて出来ない贅沢なお部屋。
このあと、桜を見に行こうって誘われて。
それなのに――こんな雰囲気のままじゃやだよ。
もっと、凜久と……
「わぁ、すごい露天風呂だよ!
見て凜久っ」
「……」
「浴衣もあるよ」
「……」
あまりに無反応の凜久に、じんわりと涙が出てきそうになる。
「――あ…色違いだ…、私ピンク色の方着るね」
クローゼットの中には、水色とピンク色に分かれた浴衣に帯に、タオルまで。
私はピンク色の浴衣を手にすると脱衣所に入った。
「凜久の……バカ」
このままじゃ、私だって寂しい。
このまま、何も喋らないままで。
少し開いてしまった凜久との距離がもっと大きくなっちゃうんじゃないかって。
不安で不安で仕方ないよ……。

