こんなに若くて綺麗で、さらに爵位まで持っていたら世の中の女性がほっておかないだろう。
しかもこんな所にいるんだから、結婚はしてないと思える。
「お初にお目にかかります、ノグラース伯爵様。シャレンと申します」
出来るだけ愛想のいい声でいいながら、床に膝をつき、お腹に手を添えながら、深々と腰を曲げる。
これはスニリア帝国の身分の卑しい者がする、服従を表すお辞儀。
身分が卑しい、というものの、このお辞儀は奴隷たちがするもので、いくら身分が低いといえども自由がある者は〝服従〟をよしとせず、このお辞儀は絶対にしない。
要するに、このお辞儀は屈辱。
同胞が同胞に支配されるという屈辱だ。
「顔を、あげて」
レイシアの甘い声が、シャレンを誘うように命令する。
シャレンは言われるがままに顔をあげた。
「本当に瞳も髪も、深い黒なんだね」
そこを触れられるのは分かっていた。
だから動揺なんてしないし、挑発じみた藤色の瞳も見てみぬふりをした。
この人は、私を試している。
長年培った勘がそう悟っていた。

