他の扉より一際大きな来客用の扉の前で、奴隷商人とシャレンは立ち止まった。
「いいか…お前の買い取りの話しをして下さったのは、帝国でも有数の古くからある伯爵家の方だ。お名前は、レイシア・ライル・ノグラース様だ。ノグラース伯爵様、とお呼びしろ」
シャレンは初めて相手の素性を聞いて、眉をひそめた。
ノグラース伯爵家。
確か、家は代々王宮遣いで、貴族・伯爵の筆頭だと言ってもいい家。
どうしてそんな大家が私のような奴隷を…
そもそも、こんな奴隷の中でも更に賤しい私を買い取ろうとしていること事態、凄く可笑しい。
漆黒は、死神を呼び寄せる。
まさか大家がそんなことを知らないわけがある筈ない。
「頼んだぞ、シャレン」
主人の力の籠もった声が聞こえ、シャレンは思考を止めた。
兎に角今は、逃げることを優先事項にするべき。
例え帝国の大家を敵に回しても、私は自分の意志をねじ曲げるなんて軟弱なことはしない。

