悲涙の花びら





「……」

「……シャレン」



どうすることも出来なくて黙した私を見兼ねてか、伯爵はそっと私の名を呼んだ。



「なんでしょう?」

「僕は君を1人の人間として見たいんだ。いや……そうすべきなんだ」



どこか迷いのある声と憂いのある瞳が、私を縛るように向けられる。

捉え方によっては、意味深に聞こえる伯爵の言葉。

私の頭の中は既に自分の立場をどう見極めればいいか分からず、混乱していた。



奴隷としての自分。

一個人としての自分。



一体どちらを優先するべきなのか。



「だから君はここで奴隷ではなく、僕の客人……僕と対等でいて」

「……伯爵」

「駄目だ。レイシアだよ、シャレン」

「レイシア、さま」

「敬称はなし」

「……レイシアさん」



なんだか口頭誘導されている気がして、身を竦めた。

伯爵……レイシアさんの声には、まるで魔力あるみたいだ。



(……魔力)



そういえば、そんな力を持ち合わせている人間が、この世界にいると聞いたことがある。

もしかすると、彼はそういった人種かもしれない。

ノグラース家の血脈くらいなら、魔力をもっている人間がいてもおかしくないかもしれない。