トントン、



小さくなったノックの音にシャレンは身を固くした。

扉はそんなシャレンにお構いなくゆっくりと開かれた。




「シャレン」


名前を呼ばれ顔を上げると、どうやら仕事を終えたらしいノグラース伯爵がいた。

着ていたコートを脱いでいるのを見て、本能的に私の体は動いた。



「お持ちいたします」



彼の側までいって手を差し延べる。

そんな私の動作に伯爵は少し驚いたような顔をした。



「シャレン。君がこんなことをしなくていいんだよ」


「ですが、私は奴隷です」


「シャレン!君はもう奴隷じゃない」


「奴隷です」



奴隷じゃない、と言われて少し腹がたった。

いくら伯爵が奴隷じゃないと言っても、結局は私が奴隷だという事実は変わらない。



「君は……本当に…」


困った顔でため息をついた伯爵は、額に手を当てた。

それから少し何か考えて、冷たい瞳を私に向けた。



「なら君は何をしようと構わないの?僕が死ねと言ったら死ぬの?」


「はい」


「そう……」



何だか負けたくなくて勢いで言った言葉に、伯爵が突き放すような声をだす。