「僕は君を離さない」



私の耳に、ノグラース伯爵の唇が触れた。
唇が触れた部分が、熱帯びる。



『僕は君を離さない』



どうしてこの人は、逢って間もない私にそのようなこと――まるで恋人に囁く愛の言葉を言うのか。


私は、卑しい奴隷。


なのにどうして。

どうして、そんな目で私を。



(――アナタは、誰?)



遠くで、唄が聴こえる。


哀しい、哀しい、唄。



(――私は、誰?)



そして忘却された記憶に、

白い花びらを視た。