「シャレン?」



再度、問いかけるような口調でシャレンの名が呼ばれた。




最悪の事態に、どう対処していいのかわからず、ドアノブから手を離した。


ゆっくりと確実に近づいてくる足音を聴いて、今すぐに逃げたい衝動に駆られる。


「ノ、ノグラース伯爵様」



それでもなんとかして平静を保つ。

そんな私を見越しているのか、ノグラース伯爵は少し意地の悪い(私にはそう見える)笑みを浮かべ、私の隣へと足をつけた。



「君は部屋の中で待っているのだと思ったけれど」


「申し訳ありません。
〝外に出られる〟ことが待ち遠しくて、待ち切れませんでした……」


「僕が思っているより、どうやら君は無茶をするみたいだね」



そう言ったノグラース伯爵は、細く長い指で私の髪を耳にかけた。

その動作に見とれていると、私の体はいつのまにかノグラース伯爵の腕の中にあった。