待っている間、頭の中は様々なことでいっぱいだった。
今は、ここから逃げるのに絶好な機会。
これを逃したら、次いつあるかわからない。
でも、私の買い手はあのノグラース家の当主の人間なのだから、逃げてもそう長くは持たない。
「どうしよう……」
逃げないで相手の思う通りになるのは、イヤ。
だけどそれ以前に、私の買い手が不味かった。
とことんついていない自分の人生に、ため息がでる。
どこまで落ちぶれればいいのか。
奴隷なんて惨めなこと、したくない。
奴隷のまま蔑まれて死ぬなんて、したくない。
「……」
とりあえず、外を見よう。
それで隙があれば、死に物狂いで逃げればいい。
必ずノグラース家の息がかかっていない場所は、ある筈なのだから。
決心を固めたシャレンは、入って来た時と同じ扉に手を伸ばした。
キィ、と金具の唸る音が発つ。
ゆっくりと扉を開き、外の様子を見た。
誰もいない。
こんなことがあるのか、と思いつつも、外に通じる扉へと急いだ。
今ならいけるかもしれない。
一歩、一歩。
確実に外へと進んでいる事に、胸が高鳴る。
この腐れたところから、逃げだせる。
気が付いたら走っている自分に驚きながら、とうとう外へと通じる扉の前まできていた。
いつもこの前を通るたびに、その外へと思いを馳せていた。
あの扉を開けるだけで、腐れたこの場所から抜け出せる。
どんなにこの扉のドアノブを捻ることを願っていたか。
そっと、惜しむようにそのドアノブに手をつけた。
その刹那。
「シャレン?」
まるで私がここに来るのを判っていたような口ぶりで、私の名前を呼ばれた。
シャレン、という音を紡ぐその唇は。

