『いま仕事が終わって帰って来たところだよ。電話遅くなってごめんな?実冬何してた?』


『………。』



『実冬……?どうした…?』



いつもなら心を温めてくれるこの穏やかな低い声も

もう私にとっては偽善に満ちたただの音にしか聞こえなかった。


『…おい、実冬?何かあっ…』


『嘘つき。』


『………?実冬…?』


『…会社になんて…行ってないくせに…』


自分が話してるはずなのに

まるで違う誰かが話してるみたいだった。


心と身体が真っ二つになってしまったようで、気持ちと言葉が結び付かない自分に違和感を覚えていた。




『……実冬…』


『…私に嘘ついてまで……優花と一緒にいたかった…?』


『…実冬、聞いてくれ、それは』


『私のわがままにはもう疲れた?そうだよね、だって優花はいつも笑ってて私みたいにすぐ怒ったりなんてしないもんね』

声を発しながら、携帯を握る手に力がこもってゆく。

けど、それでもやっぱりその手と空白のままの心はバラバラのままだった。


『あのな、実冬、優花ちゃんは』


『優花「ちゃん」…?ちゃんなんて付けなくてもいいんじゃない?』


『………実冬……』


話を聞かずに一方的に言葉を吐く私に、透が溜息を付いた。


そのことが尚更私の感情を煽る。


『…っ…何今の?私みたいなお子様なんて相手にしてられないって…そういうこと?!』


『誰もそんなことは言ってないだろう?ちゃんと説明するから。明日会って話そう…?な…?』



私は返事もしないまま電話を切り、電源を落としてベッドの上に投げ付けた。