ビルの前の小さな花壇に腰を下ろす。
冷えたコンクリートの囲いが痛い。
私の存在も気持ちも無視するように眼前を行き交う人々。
『実冬…あれは誤解なんだ…』
誤解って何…?
私はこの目で見たんだよ?
貴方が嘘付いて優花と二人で楽しそうに歩いているところを。
おかしいと思ったんだ。
土曜なのに仕事だなんて。
仕事の合間にたまたま会ったんじゃないでしょう。
営業マンの透が、仕事の日にジーパンでいるはずがないものね。
ふとポケットに何かがあるを感覚がして、中を探ってみる。
あ…携帯だ…
透の部屋を飛び出した私が唯一持っていたのは
昨日の夜から電源を切ったままの携帯電話だった。
『…………っ』
電源を入れると、透から何十件ものメールが届いていた。
メールを読んだら
負けてしまう
許してしまう…。
私は何も見ずにまた携帯を閉じてポケットに押し込んだ。