「うそぉ…そんな…私、まだ…」


「違う、奈未。まだ、悪化してるわけじゃなくてさ。ただ、治療とリハビリが必要でそうしなければ、聞こえなくなるだけで」


わかってた。


奈未にとって。いや、アーティストにとって
“聞こえない”“歌えない”


なんて一番の屈辱だって事。


そんな大事なものを失ったら、生きる希望ですら無くなるような絶望感。


「…私、歌えなくなる?治るの?ねぇ…雪斗ぉ」


「…治るよ。」


ただ一言しか言えなかった。




あの時。ああすれば。こう言う風にしたから…


そんな言い訳しか思い付かなくて。


泣き崩れる奈未をただ、見ているしか出来なかった。



僕は、彼女に 嘘をついたから。


何も言えなかったんだ。