沢山のファンの歓声と始まるライヴの曲にのせて拍手が響き渡る中


彼女はスタンバイをしている階段先で僕に言った。


「私ね、今凄く幸せ。2つの大きなスポットライトに、偉大なスポットライトに当たれるんだよ!」


「…2つ?」


「うん、2つ。ファンの皆の熱い歓声や視線のスポットライトと大きなステージに広がる無数もの大きなスポットライト」


「そうだな」


「だから、後悔はしてない。精一杯歌うんだ。あのスポットライトを無駄にしないように」


夢は、今立っているステージ。


この場所に立つ事が僕たちの第一歩の夢だった。


やっと立てるステージには、もう時間が残されて居なかった。


張りつめる緊張と残酷。


階段を一段、一段昇る先には少しずつ夢に見た偉大なスポットライトが目の前に姿を表す。


『どうか最後までステージに立てますように』
心の中で必死に祈る。


ただ今、僕に出来る事は。


彼女を見守る事だけだった。