君に染まる(前編)



「ただの気まぐれ。俺の家行こう」



女の人を立たせた先輩は
あたしの横を通り過ぎた。



振り返ったあたしは
先輩の背中に向かって叫ぶ。



「『未央ちゃんも星条においでよ』
って言ってくれたのは!?」



先輩がそう言ってくれたからあたし…。



足を止めた先輩は
女の人を残してあたしの方に歩いてきた。



「…そんなこと言った?
覚えてないなー…けど…」



顔を近づけてにやっと笑った。



「それで星条に来たんなら…
未央ちゃんってストーカーだね?
はっきり言って、気持ち悪いよ」



鼻で笑った先輩は
そのまま女の人と歩いていった。



“未央ちゃんのピアノ、好きだな”



“もっと聞かせてよ”



“未央ちゃんも星条においでよ。
待ってるから”



優しい植野先輩。



“可愛くなったよね、未央ちゃん”



あれも…嘘…。



“私服姿ってなんか新鮮だな…”



全部…嘘…。