君に染まる(前編)



「ビッ…そう呼ばれてるらしいな。
まあ、そこに来い」



そう言った先輩はあたしに背を向けた。



非常階段を降りながら、



「来なかったらどうなるか知らねえぞ」



恐ろしい言葉を残して。










「で…お詫びって、それ?」



下駄箱から靴を出しながら
あたしの手に握られている売店のパンを
見つめる楓ちゃん。



「そんなので許してもらえるとは
思えないけど?」



「でも…あたしが出来るお詫びって
これくらいしか…」



「VIPルームに来いって言われたなら
お詫びはあれしかないでしょ」



「あれ…って?」



「あれはあれ。じゃああたし先帰るね」



「え、待っててくれないの?
パン渡したらすぐ帰れるのに…」



「あたしバイトあるし…
それに、あの獅堂先輩が
そんなので納得して
すぐ帰してくれるとは思えないし。
じゃあね未央」



振り返らずに手をふる楓ちゃんの背中を
呆然と見つめる。