君に染まる(前編)



「詳しいことは私にも…
失礼ですが、
坊ちゃんとケンカでもなさいましたか?」



「ケンカ…」



もしかして、さっきのこと…
ものすごく怒ってる?



「…何があったかは存知ませんが、
坊ちゃんの許可無しでは
中に通すことは出来ませんので、
今日のところは
お帰りになった方がよろしいかと・・・」



…帰る?
先輩に誤解されたままで帰るの?



「先ほどお送りするよう
坊ちゃんから頼まれましたので、
どうぞお乗りください」



畠山さんが車のドアを開ける。



だけどあたしは、
車に乗りこもうとはせず
ただ開けられたドアをじっと見つめた。



先輩の誕生日なのに…
先輩に喜んで欲しくて
曲だって作ったのに…。



このまま帰るなんて嫌だ。



「…帰りません」



「え?」



「あたし、帰りません!
先輩が会ってくれるまで
ここで待ってます!!」



そう叫び、門の近くにしゃがみこんだ。



「い、いけません百瀬様!
私が坊ちゃんに叱られます!」



「いいんです!放っといてください!」