君に染まる(前編)



そう思った時。



「百瀬様?」



聞き覚えのある声に振り向くと、
車の中からあたしを見つめる
畠山さんがいた。



「どうされました?こんなところで」



「あ、あの…
先輩に会いに来たんですけど
チャイムがどこにあるか分からなくて…」



「ああ、そうでしたか」



そう言うと、
車から降りて機械の前に立った畠山さん。



慣れた手つきで数字を入力していき、
取り出したカードを溝に通す。



「ここは関係者専用の入り口なんです。
だから、チャイムは無いんですよ」



「あ、そうなんですか」



「まあ、前にいらっしゃった時は
坊ちゃんが一緒だったので
間違えても無理ないですね」



畠山さんの話を聞いている間にも
大きな門はゆっくりと開いていく。



「では、お乗りください。
中までお送りいたします…
っと、その前に…」



あたしを車内へうながしていた畠山さんは
携帯を取り出した。



「一応決まりなので…
少々お待ちください」



そう言いながら微笑むと、
どこかに電話をかけだした。