君に染まる(前編)



「まあ、でも…
修理の人に見てもらった方がいいよ」



「そうですね。
調律がおかしいだけだったとしても
あたし達じゃどうせ直せな…」



そう言いながら堀河さんに
顔を向けた瞬間。



ドガッ



鈍い音と共に堀河さんが視界から消えた。



それと同時にあたしの視界に現れたのは…
顔をしかめた獅堂先輩だった。



「……せ…先輩?」



突然現れた先輩に動揺するものの、
ハッと我に返り堀河さんを探す。



視界にとらえた堀河さんは
ピアノの側に倒れこんで
左頬を手で押さえていた。



そんな堀河さんに驚き、
まさかと思いながらも
視線を先輩に戻すと、
先輩の右手は硬く握られ拳ができていた。



…獅堂先輩が堀河さんを殴ったんだ。



頭がそう認識すると
無意識のうちに体は堀河さんに向かった。



「大丈夫ですか!?」



「…あ…っ…うん…なんとか」



顔を歪ませながらも
笑顔を向ける堀河さんに
ホッと胸を撫で下ろす。



「未央」