君に染まる(前編)



「あ、今から取りに行きますよ」



『あ、そう?なんかごめん。
じゃあ、気を付けておいで』



「はい。それじゃあ、後で」



携帯を切り、簡単に身支度を済ませる。



「ん?どっか行くの?」



「ちょっとピアノ教室に…
楽譜忘れてたみたいだから取ってくる。
すぐ戻るから」



「じゃあ、買い物は帰ってきてからね」



笑顔でそう言う楓ちゃんに、



「行きません!」



しかめっ面を向けて部屋を出た。










「はい、これ」



目の前に差し出された楽譜を受け取り
ホッと胸を撫でおろす。



「楽譜無くしてたことに
気付いて無かったんで助かりました。
ありがとうございます」



「いえいえ、お役に立てて光栄です」



わざとそんな言い方をする堀河さんに
思わず笑顔を浮かべる。



「あ、それより…
さっき言ってた手が離せないって、
もしかしてこれのことですか?」