君に染まる(前編)



そう言いかけたところで
楓ちゃんが口を噤んだ。



不思議に思い「どうしたの?」と
聞こうとした瞬間、



「きゃ!」



誰かに後ろから抱きしめられた。



え?え?な、何?っていうか…誰!?



突然のことでパニックになっていると、
耳元で響いた低い声。



「ただいま」



……え?



聞き覚えのある声に振り返ると、
笑顔であたしを見下ろす獅堂先輩がいた。



「……し、獅堂先輩?」



「久しぶり、未央」



そう言った先輩は
驚くあたしをもう一度抱きしめるた。



「え、あ、先輩、帰ってたんですか?」



「ついさっきな。
んで、空港から直接ここに来た」



直接って…確かに私服だけど…。



「帰ってくるならそう言ってくれれば…」



「悪い。未央の驚く顔が見たくてさ」



意地悪く笑う先輩に少しホッとした。