君に染まる(前編)



「それから1回も乗ってねぇの?」



「いや…小学校低学年の時に1回だけ…
結局乗れませんでしたけど…」



未だに後ずさりながらそう言うと、
先輩は頭をかきながら呟いた。



「小学生…そっかそっか」



そして、あたしの顔を見て微笑む。



どこか意味深な笑みに
嫌な予感がした瞬間、



「!?」



先輩があたしの体を抱え上げた。



「先輩!?」



驚くあたしにかまわず
階段を上がっていく先輩。



観覧車は思ったよりすいていて、
いつもは行列が出来るこの階段も
今ではただ上がるだけ。



それでも周りには何人か人がいて、
先輩にお姫様抱っこされているあたしは
周りの目を気にするはずなんだけど…。



観覧車に近づいていることに焦って
それどころじゃなくなった。



「お、下ろしてください!」



「最後に乗ってからずいぶん経つんだろ?
もう乗れるって」



「む、無理ですよぉ…」



近づく観覧車に恐怖心が増し、
目をつぶって先輩の胸に顔をうずめた。