君に染まる(前編)



「…違うんですか?」



そう聞き返すと、
先輩はさっきよりも大きなため息をついて
立ち上がった。



そして、あたしの腕を掴んだまま
携帯を開いて歩き出す。



「ど、どこ行くんですか?」



「門限に間に合うように帰してやるから、
それまで俺に付き合え」



「それは別にいいんですけど…
どこに付き合うんですか?」



首をかしげるあたしに
先輩はあごをくいっと動かした。



先輩が示した先には大きな観覧車。



!?



「あれ乗ってから帰ろう」



手を腕から手に握りなおし
振り向いて笑顔を向ける先輩に、
あたしは必死に顔を振った。



「む、無理です!
観覧車なんて乗れません!」



「は?今度は高所恐怖症か?」



「そうじゃなくて…
乗るタイミングが掴めないんです…」



そう言うと、先輩は吹きだした。



「タイミングって、ゴンドラに乗る?」



肩を震わせて笑う先輩に、
恥ずかしくなりながらも小さくうなずく。