君に染まる(前編)



「…昨日楓ちゃんが家に来たんですけど、
その時にお兄ちゃんに話を聞かれて
今日のデートのことバレちゃったんです。
楓ちゃんに話を合わせてもらって
なんとか誤魔化したんですけど
完全には信じてくれなくて
『デートじゃないなら
6時には帰ってこれるだろ』って…」



「それで門限か…」



そう呟くと、黙りこんでしまった先輩。



あたしの方を見てくれない先輩の横顔は
すごく不機嫌そう。



…当たり前か。



「…ごめんなさい!」



あたしは頭を下げた。



「せっかくのデートなのに
あたしのせいで気分悪くさせちゃって…」



「あ?」



「それに、先輩が寝ちゃったからって
あたしまで寝ちゃって時間が無くなって…
居眠りなんてしなかったら
門限があっても十分楽しめ…」



「ストップ!」



あたしの腕を掴み言葉をさえぎった先輩。



驚いて顔をあげたあたしと目が合うと、
ため息まじりに口を開く。



「『あたしのせいで気分悪く』
…って、何?」



「え?」



「まさか、門限のせいで俺が怒ったって
思ってんじゃねぇだろうな?」