君に染まる(前編)



「5時」



夕日に照らされる先輩は、
あたしを起こす前に確認していたのか
即答だった。



「俺達何時間寝てたんだ?」



そう言って小さく笑うと、
トレーにグラスを乗せて立ち上がった。



そのまま返却棚に向かう先輩に
荷物を持って慌ててついていく。



返却棚にトレーを置いた先輩は、
あたしの手を握って店の外に出た。



「せんぱ…」



「ロスした時間取り戻さねぇとな」



頭をかきながら周りを見渡す先輩に
あたしの言葉はさえぎられた。



あ…タイミング…逃した…。



あたしはさえぎられた言葉を
再び口に出そうとはせず、
そのまま呑みこんだ。



うつむき見下ろした地面には
夕日の色がぼんやりと映っている。



それが、あたしを更に焦らせた。



どうしよう…早く言わなくちゃ…。



「今度は未央の好きなのにしようぜ。
なんか乗りたいもんあるか?」



あたしの気持ちとはうらはらに
先輩はあたしの手を引いてどんどん歩く。



そっと開いた携帯の画面に表示されている
現在時刻は進む一方。