「5時」
夕日に照らされる先輩は、
あたしを起こす前に確認していたのか
即答だった。
「俺達何時間寝てたんだ?」
そう言って小さく笑うと、
トレーにグラスを乗せて立ち上がった。
そのまま返却棚に向かう先輩に
荷物を持って慌ててついていく。
返却棚にトレーを置いた先輩は、
あたしの手を握って店の外に出た。
「せんぱ…」
「ロスした時間取り戻さねぇとな」
頭をかきながら周りを見渡す先輩に
あたしの言葉はさえぎられた。
あ…タイミング…逃した…。
あたしはさえぎられた言葉を
再び口に出そうとはせず、
そのまま呑みこんだ。
うつむき見下ろした地面には
夕日の色がぼんやりと映っている。
それが、あたしを更に焦らせた。
どうしよう…早く言わなくちゃ…。
「今度は未央の好きなのにしようぜ。
なんか乗りたいもんあるか?」
あたしの気持ちとはうらはらに
先輩はあたしの手を引いてどんどん歩く。
そっと開いた携帯の画面に表示されている
現在時刻は進む一方。



