君に染まる(前編)



「…え?」



「いいから詰めろ、ほら」



意味の分からないまま軽く体を押され、
あたしは窓側に詰めた。



向かい合って座るべきソファーの片方に
2人で座っている状態。



元々、大人が3人ほど座れる
広々としたソファーだから
そこまで狭くは無いけど…
傍から見ればすごく変な光景。



近くの席に座っている人や、
窓の外を歩いている人達が
ちらちら見るほどに…。



そんなことは気にもせず、
さっきまで自分の前にあったコーヒーを
手を伸ばして引き寄せている先輩。



「せ、先輩?あの…
わざわざ同じ席に座らなくても…」



「同じ席に座っちゃいけねぇなんて
決まり無いだろ。
向かい合って座らねぇといけねぇ
決まりが無いみてぇに」



「それは…そう、ですけど…
で、でも、やっぱり変な感じだし…」



そう言ったあたしの顔をちらっと見ると、
先輩は頭を押さえてうつむいた。



「…すんだよ」



「え?」



「緊張すんだよ…向かい合って座ると…」



声を落としながらそう言うと、
そのままテーブルに顔をうつぶせた。



「緊張って…先輩が、ですか?」