満ち足りない月





「ラル……」

振り向くと、セシルはその名を呼んだ。

しかし目の前にいる彼の姿もまた屋敷とはまた違った様子だった。


息づかいは荒く、服もセシルと同じ様に所々すりむけている。

恐らく走ってきたのだろう。


「何で――」


「森に迷い込んでやってきた奴が帰り道が分かるはずがないだろう?」


―――知ってたのね…、嘘をついた事。

でもそれもそうよね。どうして私はあんな見え透いた嘘をついたのだろう。

もしかして私、彼に来て欲しかったから……?


一体男に媚びてる女は誰なんだか。


「ごめんなさい」