満ち足りない月





「ハアハア……っ」


駆け足はやがて小走りになり、今や木の枝やぬかるみにはまっても走り続けていた。


なんでこんな風に走り続けてるのかは分からないけれど、少しでもあいつらから離れないと。

それはセシルの本能が脳ではなく、体に直接伝えているかのようだった。


ヴァンパイアと名乗る男には自分から望んで居るのにあんな紳士のような人達からは逃げたいだなんて、私もおかしいわね。


セシルは走りながらふと思った。


もともと道筋なんて知る由もなかったが、このがむしゃらな走りで余計に迷ってしまいそうだ。


「どうしよう…」


状況は昨日より悪かった。