満ち足りない月





「おや、これはこれはこんな森にお一人でどうしたのかな?お嬢さん」


黒い服を着た二人のうち右側の男が物珍しそうにセシルを見下ろした。

すらっと背の高く口髭のあるその男は暗くて顔もよく見えなかったが、歳は三十の初め頃という感じだ。


もう一人の男も長身で、同じ様に黒いスーツのような格好をしている。森の暗闇に溶けるように黒いスーツは見えにくい。

こちらは二十代後半といったところだろうか。


見るからには紳士なイメージを受ける二人だが、なぜかいやな予感を覚えたのが分かった。


「いや、あの迷ってしまって…」


普通に接しようとしたのだが、逆に緊張で言葉がひっかかってしまうセシル。

妙に目が泳ぐ。


すると立っていた男達はセシルの視線が自分達に向いていないのを確認して顔を見合わせた。口髭の男がクイッと軽く顎をしゃくる。


「ほう、それはお一人で大変だったでしょう。我々が森の入り口まで案内しますよ」


若い男がにこっと笑って言った。