満ち足りない月





「不思議な子だなぁ」

ラルウィルは笑いながら呟いた。笑うと口角が上がり、とても優しそうな顔になる。


こんな人が、ヴァンパイア?

セシルは彼を見つめながら思った。どう見ても普通の人間にしか見えない。


「それで何故、私をここに泊めなかったの?ここに泊めてれば、若い女の血が手に入ったでしょうに」


こんな質問をする事自体、不思議な事なのだが、セシルにはラルウィルの行動が読めなかった。


ヴァンパイアは若い女の血を好むと聞いた事がある。

それなのに何故、せっかくの獲物を逃がすような行為をしたのか。


「なら飲んでもいいのか?…君の血」

にやっと笑いながらラルウィルは答えた。



「ええ、いいわよ」