満ち足りない月





ラルウィルは小さく微笑んだ。


「雨音くらいで音楽は遮られないよ」





『ねえ、エル。今日は凄く雨が降ってるからちょっと歌いにくそうね』


『じゃあ雨にも負けないくらいに歌わないと』



あの日の言葉を思い出して、セシルは遠くを見つめるように俯いた。


「エル……?」


ラルウィルが返事をしないセシルに不思議そうに問い掛けた。


「ううん、ごめんなさい。ぼーっとしてて」

そう返事を返しながらもセシルはふと思った。


そうよね、今私はこの人にとって“エル”って呼ばれる存在なのよね。

首都の名家の貴族である“セシル“ではなくて。


セシルは下を向いてただ雨音が耳に入ってくるのを感じた。



「雨、俺も嫌いだよ」