満ち足りない月





後に、屋敷のメイドがエルのその後の話をしているのを聞いた。


『あの問題を起こして辞めさせられた家庭教師の子、コンクールにも出られないように旦那様が圧力をかけたそうよ。あの子も素直に言われた事だけをやっていればよかったのに』


その時一瞬にして視界が真っ暗になった事を覚えている。


エルの、一流のプロになる夢を私が壊したんだわ。

全て私のせい。

私と関わったからこんな事に……




セシルの表情が険しくなったかと思うと、目を閉じて曲の途中にも関わらず、手を止めた。


「驚いたな、弾けるなんて」

後ろから突然声がした。


セシルが振り返ると、案の定彼が扉の前に立っている。


「ごめんなさい、起こしちゃったわよね。雨が降ってるから軽い曲なら大丈夫だと思ったんだけど…」

八メートル程先にいるラルウィルに向かって放たれた言葉はよく響いた。

音の響きも良かったし、音楽ホールと同じような作りになっているのだろう。