満ち足りない月





エルがいなくなって、ピアノや音楽が大嫌いになったセシルにとって、新たな家庭教師による音楽の時間は苦痛だった。


父が雇った次の家庭教師は大人の男で、優秀で実力はあるが、やはりエルのように優しく、音楽を楽しめるような授業ではなかった。

しかし、エルがいつも言っていた"音楽は楽しむもの"

この言葉が彼女の音楽に対する感情を保たせた。


音楽は好き。けれど、授業は嫌い。

それがエルがいなくなってからのセシルの思いだった。



セシルは両手を鍵盤の上に置いて、ゆっくりと弾き始めた。


ポロロン、ポロロン

一つ一つの男が高く、まるで夕立のように音楽は流れた。



弾いている曲はセシルが一番好きな曲だ。

細やかなメロディと、弾むような音が特徴的で、エルが大好きな曲だった。



『申し訳ございませんでした』


最後に見たエルの姿。

深く深く頭を下げて肩を震わせていた彼女は、扉の隙間から消え、もう出会う事はなかった。