満ち足りない月





父はちらっと横目で後ろに立っているエルを見ると、何も言わず、ドアノブに手をかけた。


「――それから」


またエルの声が聞こえた。

今度は心なしか声が震えている。


「お嬢様を責めてあげないで下さい。あのような無礼をさせたのはこの私です。



………申し訳ございませんでした」



扉の隙間からエルの姿が見えた。

体全体を小刻みに震わしながら深く深く腰を曲げているその彼女は揺らいで見えた。


セシルの頬を、冷たいものが流れる。



父は自分に向かって深々と頭を下げている彼女に見向きもしないで、扉のドアノブに手をかけるとぐっと押し、廊下側に体を出した。


"バタン"



突き抜けた廊下によく響いた扉が閉まる音。


その音と共に、セシルの視界から頭を下げたエルが消えた。