満ち足りない月





「申し訳…ございませんでした」


セシルはそっと扉と壁の間を除き込み、その僅かな隙間から見えるエルを見つめた。


エルはそう言って深々と頭を下げている。

そしてそのままの姿勢で続けた。


「でも、私はお嬢様にも普通の子供達が持っているものが必要だと私は思うのです」


雨足が段々と酷く耳を叩くように響いてきた。

少し会話が聞き取りにくい。



「何が必要だと言うのだ。あの子の欲しがる物は何でも与えてきた。ぬいぐるみ、服、美味しい食事、地位や名誉だってな。何が足りない?必要なものは全てあるのだぞ」


鼻で笑うと、男は言った。

エルは何も言わず、視線を下に向けている。


何も言う言葉がないのだろう、と判断した父は目付きを変え、鋭い視線でエルを見た。


「たかが一家庭教師がこの私に盾突くなんてな。……クビだ。もうこの家に関わることは許さん。出てゆけ」