満ち足りない月





気付かれないようにそうっと、開け放された扉へと近付いた。

ちょうど大雨によるぱたぱたという雨音のお陰で、少女の小さな足が廊下に敷かれている豪華な絨毯(じゅうたん)へと下ろされる音は聞こえない。

が、それは同時に部屋の中にいる二人の声をも聞き取りにくくしていた。


「何だ、その泥の固まりは」


どうやら机に置いていたセシルの泥だんごを見つけたらしい。

父の太く、低い声が雨音と共にセシルの耳へと届いた。


「泥だんご、と言います」

エルの落ち着いて凜とした声も聞こえる。

普段の少年のような張りのある明るい声色とは全く違う、“大人の”声といった感じだ。



エルとは距離があるため、セシルはその声が聞き取りにくく、そのためそっと扉の裏へと近付いた。


そのすぐ後ろには父がいる。

セシルは緊張で心臓が金鳴りのように響くのを何とか収めようと、自らの胸に手を置いた。