セシルも父とは久しぶりに会ったのだった。

忙しいこの家の主人は、主にこの屋敷で仕事を行っているのだが、ここ一年は大きな事業(セシルはそう聞いていた)の為、家で仕事は行わず出掛けている事が多かった。

もしこの屋敷内に居たとしても子供と合う暇などこの男にはなかったのだ。


セシルの父親はふと気が付いたように声を出した。


「何だその手は」

「え?」


目を見開いてこちらの手を見つめる父親を見て、セシルも自分の手の平を見る。

すると少女は素早く両手を自らの背中へと隠した。


しかし尚も隠された所を見つめながら眉を吊り上げ、父はその両手を掴んで無理矢理自らの顔の前に持ってきた。

「何て汚い手だ。この家の者がそんな手をするんじゃない」


低い声で怒りをあらわにする父にセシルは怯えきっていた。