セシルは開いたままの扉まで走った。

その勢いで、扉の向こう側にいた大きな物に顔をぶつけてしまう。


「わっ、と」

セシルは慌てて、その黒に近いグレーの物から顔を放す。


人の体、だという事は分かった。

しかも相手はセシルより遥かに大きな体。

上質であろう柔らかい肌触りのスーツ。

そして服からは大人の男の人のすっきりとした甘くない匂いを感じた。


そして幼いながらにその全てが一致する人物に辿り着くと、セシルは恐る恐る顔を上げた。


「危ないだろう」

声はセシルの何十センチ上から聞こえてきた。


そしてその男と目が合うとすぐに後ずさるセシル。


「ご、ごめんなさい」

少し震える声で言うと下を向いた。

どんな顔をしているのか怖くて見たくないからだ。


「旦那様、お帰りなさいませ」


後ろでエルのひどく落ち着いた声が聞こえてきた。