「セシル、じゃあ歌の稽古を始めるよ」

「うん」

楽しそうに返事をするセシル。


エルの稽古はいつも楽しみだ。本当に音楽を好きになれる。



「ねえ、エル。今日は凄く雨が降ってるからちょっと歌いにくそうね」

セシルはカーテンの隙間から、降り続ける雨の雫を見つめながら言った。


「じゃあ雨にも負けないくらいに歌わないと」


エルは笑みを漏らしながら、さっそく楽譜を用意しようとしたが、セシルの手を見てふと気が付いた。

「セシル、手を洗ってきて。楽譜が触れないから」


セシルは自分の両手をじっと見た。

さっきまで泥だんごを磨いていたせいか、砂がほんのり手の平に乗っている。

爪にまで少し入り込んでいるようだ。


「分かった、洗ってくるわ」