以来、エルは歌やピアノ、フルートを教える以外にもたくさんの事をセシルに教えた。
泥だんごもその一つで、貴族の一人娘であるセシルにとって泥を握るという行為すら一度もした事がなかったのだから、その不思議な手触りにセシルはワクワクした。
そのほかにもエルがセシルに教えた事全てが、セシルにとって初めてする経験ばかりでそのどれも素敵で、楽しかった。
そしてエルは友達と名乗ったその日からセシルをお嬢様、とは呼ばなくなった。
更に敬語も使わなくなったのは、セシルが願い出た事だった。
「友達なのに敬語なんて、おかしいわ。それにお嬢様なんて呼ばなくていいの。セシルと呼んで」
セシルは次第に笑顔が絶えない少女になっていった。
また、小さい頃から可愛がられ、更に厳しく育ってきたセシルは自尊心が強く、常に物事を見下していたが、それも次第に薄れていった。
エルは決して彼女を甘やかそうとはせず、セシルが間違った事をしていると叱った。
どんなに下げずみ、見下し、文句を言っても誰にも叱られなかった事をエルはしっかりと怒った。
自分の地位ばかりを見て頭を下げてくる使用人達と違い、エルは正直な気持ちをセシルに言う。
エルは17歳で、セシルは8歳、二人の友人関係は一年経ったその頃まで続き、エルはセシルにとってかけがえのない特別な存在になっていた。



